

鴻池家伝来
茶杓
煤竹で漆を拭いていない。ありこしという腰の高い櫂先鋭いいわゆる利休型の見本のような茶杓である。漆を拭いてないことは、利休時代には稀に見るところで、私説をもってすれば、これは唐崎舟遊中の即興作であるから漆拭かぬことが自然だと解釈している。
筒
真筒に面取して、けら判を口印に、利休自筆で「からさき」と漆書している。杓には漆を拭かず、筒に漆書せることが、またしてもわれらの迷いとなるが、筒は舟中で削らずとも、後日の仕立てと考えれば、漆書であってもさしつかえないわけである。
付属物
内箱 桐 桟蓋
同蓋裏 書付 覚々斎原叟筆「利休作銘カラサキ左(花押)」
外箱 桐 黒掻合塗 金粉文字 書付「唐崎」
追記
鴻池蔵器としてひろく知られた名杓である。銘の由来は利休が豊公の供して琵琶湖舟遊、舟中にて茶を献ずるため、即興的に自ら削り、湖畔の唐崎にちなんだ銘と知られている。これこそ行遊記念の茶杓で、利休自ら手をくだした正真の直作と伝えられている。これを利休門人瀬田掃部が拝領したことは、茶杓の銘の近江八景を活かした適当な人物見立てである。相手によって茶杓も活き、貰う人にも有難味が多い。ここらは利休の頭脳的ひらめきである。後に久田宗全に譲り、原叟の箱書を経て鴻池家に入ったという順路である。
所載
茶杓三百選
寸法
茶杓
長サ18.0cm
幅0.6―1.1cm
厚サ0.3cm
筒
長サ20.7cm
径2.6cm



