Picture of 鶴田 純久の章 お話
鶴田 純久の章 お話

高さ:7.8cm
口径:10.3cm
高台外径:5.4cm
同高さ:0.7cm
 乾山の茶碗の中で、最も著名なものの一つであり、また乾山全作品中でも、屈指に数えられる優作です。
 乾山は、仁清の陶法を伝習しながら、また別に自己流の技術を工夫して、仁清とは全く異なる、新しい陶ふうを樹立しました。仁清が、いずれかといえば、技巧派の職人流に走りがちであるのに対し、乾山では、何よりもまず、芸術精神の発露が著しいです。彼は和漢の書画に熟達し、よく和歌を詠み、漢詩を誦し、もちろん、茶道にも深く通じました。美術造形の達人であると同時に、教養ある読書人であり、隠逸の詩人でもありました。彼の作陶は、つまりはその芸術的情熱の、最も大きなはけ口となったわけです。そこでは、当然その強い個性が発揮され、情趣溢れる風流陶、独自の風格ある画陶の数々が生まれました。この滝山水図の茶碗は、そうした乾山の壮年期、すなわぢ彼の精神の、まさに高騰しつつあった、鳴滝時代の傑作とされているものです。
 他の多くの例のように、その轆轤(ろくろ)成形は乾山ではなく、別人によったものでしょう。さらりと、すなお犯ひかれ、高台も端正で、総体、癖のない平凡な半筒形です。素地は少しざらついた陶胎で、かすかに黄みをおびた淡い灰白色となり、やや強めに焼き締められています。乾山の茶碗は、大部分がこの種の半筒形ですが、もっぱら絵画的な効果をねらう乾山の場合、素地や形は、むしろこのように癖のない、目だたぬもののほうが適しているのです。
 絵は、釉下に黒一色で、漢画ふうに描かれています。構図は大胆で、渓谷の岩間を水しぶきをあげて、勢いよく斜めに落下する奔流を、茶碗の側面いっぱいに、大きく描き、これにたたずまいおもしろく、山・樹木・楼閣を描き添えています。滝つ瀬の、速く勁い筆勢、山樹楼閣の含蓄のある筆触、濃淡緩急のうちに剛気を深く蔵し、画意溢るるばかりである。
 さらにその余白には、「素色噴成三伏雪 余波流作万年澗」の賛を、得意の筆で加えています。
 この詩句は、何かの漢詩から引いたのか、それとも乾山の自作か、つまびらかではありませんが、真夏の雪解け水が白くをだち、架瓢となって深山の幽谷を流れゆく、その清澄にして冷涼たる境地を、うたったものです。
 その詩と書は、齢爽の画面にみごとに溶け込んで、乾山独得の水墨の陶画になっています。
 それはまた、乾山自身の清冽な詩心が、そのまま筆端にほとばしって、この逸格の詩画となったといってもよいです。乾山陶の妙味は、まさに、こうした陶画に求められるのです。
 付属物としては、特にあげるべきものはありませんが、内箱蓋裏に「素色噴成三伏雪 滝自画賛有名印 葵卯冬 古昔奄(印)」とあります。
 この茶碗は、もと京都小松原の、福井家に伝来したものですが、現在は京都某家に移って秘蔵されています。
(藤岡了一)

乾山 滝山水

伝来 京都小松原福井家
寸法
高さ:7.6cm 口径:10.3cm 高台径:5.1cm 同高さ:0.7cm 重さ:232g

 仁清の技法を受けつぎ、光琳の影響も多く受けた乾山の代表作の一つです。
 乾山は仁清の技法をきわめつくして、これから脱皮して、織部に帰ろうと努力したあとが見られる陶工です。だが、織部のもつあの強さには帰れませんでした。結局それで、文人趣味的方向に流れてゆくのです。
 乾山を見る場合に、注意しなければならない点はそこです。
 茶碗というものに、文人趣味的な詩賛をするというのは乾山にはじまります。
 だから、乾山をさかいとして、いわゆる文人趣味的な煎茶趣味に移行してゆくのですが、そこに「木米」が登場します。もちろん、この流行をささえたものに、黄檗の禅が大きな役割をはたしたことは当然です。
 図柄は、この茶碗に見る滝や山水のほかに、槍梅、椿、紫陽花などがあり、これに詩を書きそえ、詩画一致のものが多く、構図も描き方も、彼特有の大胆なものです。

乾山滝山水絵茶碗 けんざんたきさんすいえちゃわん

仁清の技法を受け継ぎ、兄の光琳の影響をも受けた乾山の代表作の一つ。
乾山は仁清の技法を学び、京焼の中心的陶芸家でした。
幼少からの教養は作陶にも及び、文稚な作風が乾山陶の特色である。
茶碗に詩賛をしたのも、乾山に始まります。
その文人趣味はやがて煎茶趣味に移行し、幕末に至って木米ら多くの陶工が登場するきっかけとなりました。
背景に、黄緊の禅が大きな役割を果たしたことも一因でしょう。
筒茶碗には、ほかに鑓梅・椿・紫陽花などに詩を書き添えたものがあります。
《伝来》京都小松原福井家《寸法》高さ7.6 口径10.3 高台径5.3 同高さ0.7 重さ232

銹絵滝山水図茶碗

Kenzan: tea bowl with design of landscape and waterfall, iron brownunder glazeMouth diameter 10.5cm
高さ8.0cm 口径10.5cm 高台径5.5cm
 陶器に絵と詩賛を絵付して、芸術的な興趣を一段と高めようとしたのは乾山で、乾山焼のもっとも大きな特色であり、この茶碗はそうした乾山詩画賛物の代表作です。
 作陶の主題が詩画賛にあるためか、描きやすいように、詩画賛物の茶碗はいずれも癖のない平凡な半筒形を用いていますが、はたして乾山が轆轤を挽いたものか、職人物かは判然としません。しかし、この茶碗は胴にわずかにふくらみをつけ、腰から高台にかけても端正です。高台は土見せで、内外ともに白化粧を生がけし、口縁は縁紅風に鉄絵具をめぐらし、胴に滝山水の絵と 「素色噴成三伏雪 餘波流作萬年澗 乾山省 書尚古」の詩文を書して、透明釉をかけています。絵もおそらく乾山の筆でしょうが、管見の乾山筆陶画のなかではもっとも傑出したもので、ことに滝の流れの強い筆致に趣があります。
 この滝の瀑流を主題に、山、樹木、楼閣などを描き添えているが、水墨画の風韻を一碗の絵付に見事に収めたのはさすがで、作者に詩心があってこそのものといえます。
 作行きは角皿などより堅く焼き締まった本焼物であり、茶碗の納まった内箱の蓋裏に 「素色噴成三伏雪 滝自画賛有名印 癸卯冬古昔庵 (印)」 の書付けがあります。かつて御典医として名の高い京都小松原の福井家に伝来したものです。

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