高さ:6.1~6.4cm
口径:9.ニー12.6cm
高台外径:6.5cm
同高さ:1.1cm
祥瑞の概要については、水玉茶碗の解説中でふれておきましたが、ここでもなお二、三、補足的にしるしてみたいです。まず意匠ですが、俗に祥瑞紋様といわれるほど、そこには、一見して。著しい特色がうかがわれます。しかし仔細に検しますと、祥瑞に慣用される種々の繋ぎ地紋や、丸紋にしても、あるいは捻じ意匠や、地紋の中に窓をとって、紋様を描く割り付けにしても、いずれも明末清初、ことに崇禎ごろの遺品に、しきりに見るところです。
ただ祥瑞にあっては、これらの基本の意匠の上に、さらに幾多の創意を加味し、それらの機知溢れる豊かな組み合わせの上に、千変万化の新意匠を生み出したのであって、血縁においては、もとより崇禎意匠を母胎とはしますものの、意匠の天才、呉祥瑞によって、目もあやな、独得の祥瑞紋様の生誕をみたのです。祥瑞では、いったいに器面いっぱいに、地紋や紋様を描き詰める癖が著しいですが、この繁縛なまでに濃厚な好みも、祥瑞の大きな特色で、この華縛さが、また江戸初期の町衆茶人に、すこぶる歓迎されて、祥瑞の名を、爾来、とみに高からしめたゆえんかもしれません。また詩賛や文字を紋様化して、盛んに用いたのも、祥瑞の創意に生まれた特色であって、多く吉祥や歓娯の意に出たものであるのも、この種の器として当然のことながら、中華礼賛の茶人の目には、さだめし学ありげな唐物としても映じたことでしょう。縁紅意匠も、祥瑞の創意とみるべきで、いかにもUHうて上手らしい気分を、いっそう、そそるものとして、喜ばれたことでしょう。紋様の上でもそうですが、この縁紅も、いわゆる古九谷に影響を与えています。南京赤絵の中でも、上手のものに、この縁紅がみられるのは、日本向けとして、祥瑞のひそみに倣ったものでしょう。祥瑞の高台の土見はいわゆるごま土が約束であるが茶碗や酒杯などでは必ず釉ぎわが一文字に削られており、高台は入念に削って、蒲鉾形になっています。
沓形は、祥瑞茶碗の形物の一つですが、図示のものの類品に、藤田美術館蔵の小禽絵や益田鈍翁伝来の闘鶏絵などがあり、ともに沓形の尤品とされています。この沓形の意匠たるや元来、中殴には見ないもので、もちろん織部好みの沓形を、切り型によって写したものでしょう。ただし陶と磁との相違で、やや違和感あるを免れないのは、やむをえないでしょう。蜜柑水指の胴に、ヘコミのあるのも、同趣に出たもので、いわゆる織部好みのデフォルメ、に、倣わんとしたものでしょうが、磁胎という制約上、ヘコミと化したものでしょう。
本碗では、外面は口辺下に、樺地紋の帯をめぐらし、高台側面には、唐草を旋転させていますが、前記類品でも、口辺下は他の地紋ながら、同趣の意匠になっています。胴には、前後二区に画して、一方には池辺水禽の図を描き、他方には老樹に小禽を配しています。内面口辺下には、畷路を伴う丸紋繋ぎが意匠され、この点も、類品二碗とも同様です。すべて手慣れた筆致で、のびのびと描かれ、ことに地紋や丸紋は、軽妙を窮めています。純白の地に明麗な藍の上がりは、目もさめるようで、釉調は潤いを帯びて、なめらかに美しく、祥瑞の茶碗でも、ことに世に賞玩される沓形の花として、推称されるに値いするものです。
高台は約束のごま土でこれまた約束どおりに蒲鉾形に削られ、内外の釉ぎわも一文字に削られて、高台内には藍の色も美しく、「五良大甫呉祥瑞造」の銘があります。
(満岡忠成)
付属物 箱 面取 書付 金粉文字
伝来 藤田家
寸法
高さ:5.9~6.3cm 口径:9.9~12.6cm 高台径:6.4cm 同高さ:1.0cm 重さ:270
まことにみずみずしい名碗です。祥瑞というものはこうあるべき、といった見本のような茶碗です。沓形の名のとおり、碗体をやや楕円形にひきのばし、ロ縁の飾文体の下あたりを軽く内へおさえこんで 沓茶碗形としています。ロが広く重心が低いため、つり合いをとって、大きな高台をつけています。
外面について見ますと、口縁部は石畳文の帯をめぐらし、高台周りには筒略な唐草文をつけています。こうして上下をくくられた主文帯に、芦雁の図がかきつけられています。雁の体を見ますと、翼の部分は濃い染付で、そして体の方は淡い染付をさっと刷いて、細かなニュアンスの違いを出しています。こういう染付の描法は、やがて来る康熊染付とつながるものといえましょう。内面は縁に円文つなぎをめぐらし、各円の中には、例によって芦葉達磨や東披騎醵などの風景、石畳や斜格子といった細地文をかきこんでいます。円文と円文の間に屡路が垂れているのも、きまりの型です。
祥瑞沓茶碗 しょんずいくつちゃわん
沓形の名の示すように、形は碗体をやや楕円形に引きのばし、飾文帯の下を軽く内側へ押え込んでいます。
高台は口が広く重心が低いため大きいです。
外面には口縁部と高台周りに石畳文・唐草文、その間に芦雁の図が描き付けられています。
雁の図では翼に濃い染付、体に淡い染付を刷いて細かな変化の違いを出しています。
内面は縁に円文繋ぎをめぐらし、各円の中には芦葉達磨や東披騎駿などの図柄、石畳や斜め格手といった地文が描かれています。
底に「五良大甫、呉祥瑞造」と在銘。
《付属物》箱-面取、金粉文字《伝来》藤田家
《寸法》高さ5.9~6.3 口径9.9~11.6 高台径6.4 同高さ1.0 重さ270