鼠志野茶碗 銘 山端

鶴田 純久
鶴田 純久

鼠志野 銘山の端

付属物 箱 桐 白木 貼紙 書付 同蓋裏 書付
伝来 根津青山
所載 大正名器鑑
寸法
高さ:8.2ー8.7cm 口径:13.7―14.0cm 高台径:5.7―5.8cm 同高さ:1.2cm 重さ:557g
所蔵者 東京根津美術館

 この「山の端」は、「峯紅葉」および「檜垣」「横雲」と同系列の茶碗です。昭和七年の夏から秋にかけて、筆者は、美濃大萱の窯下窯を総合的に発掘調査しましたが、その際に、これらの茶碗と同じ陶片を数多く発見しています。
だからこれらの茶碗はほとんどが、この窯下窯で焼かれたものと考えてよいです。
 これらの茶碗に共通していえることは、すべて薄作りであることです。そのため、非常にいきな感じをいだかせます。
 「佗び」の中に「いき」を見出すところに、これら一連の茶碗が茶人に好まれたのであろ。この「山の端」という銘もそんなところから生れたのでしょう。
万葉の、
5月雨ははれむとしますや 山の端にかかれる雲のうすくなりゆく
が歌銘として選ばれています。
 鬼板の泥漿がずぶ掛けにさいれておるのは「峯紅葉」とちがいますが、亀甲と檜垣がかき落とされているのは同様です。

鼠志野茶碗 銘 山端

所蔵:根津美術館
高さ:8.0~8.8cm
口径:14.0cm
高台外径:5.8cm
同高さ:1.1cm

 山端茶碗も志野名品中の名品として、志野をいうとき、だれしもただちに脳裡に思い浮かべる名碗の一つです。銘は、『玉葉和歌集』夏歌の部に見える「五月雨は晴れんとやする山の端にかゝれる雲の薄くなりゆく」(今上御製)にちなむもので、箱蓋表裏の書き付けは后西院かとも推されていますが、筆者の心象はおそらく、この茶碗の鼠紫がかった膚に白い志野釉の淡くほの見えるのを、五月雨の響れ行く山の端の膚に雲の薄くかかった情に通わせたものでしょう。
 この茶碗の美しさ犯なぞらえて、まことに適切な銘といいたいですが、この歌趣はまた山端も含めたいわゆる鼠志野の特色をも兼ねて、リアルに表しているといってよいです。
 鼠志野とは、白土に酸化鉄の鬼板の泥を化粧がけして、これに紋様を箆彫りして白く出し、その上から白い長石釉をかけたもので、志野の一手法であり、地色が鼠紫がかって見えますので、近年特に鼠志野と呼ばれているものですが、白い志野釉の、あるいは濃く、あるいは淡くかかったのを透して、鬼板化粧土の鼠紫色に見えるさまは、いかにも雨霧れの瞬前、うすい白雲を透して暗紫色の山膚の見える風情といってよく、その点、鼠志野の趣はこの歌によって仔細に尽くされています。
 姿は、総体に浅く平らめで、裾は箆削り多く、こけて高台はやや高く、立ち上がりの感じで、腰ぎわに山道箆かっきりとめぐり、口縁は高低不同に、胴も箆使いはげしく、中ほどに胴ひも強く浮き彫りされて、胴の形も不律に剛壮の感じがあふれ、これをささえて無造作な削り出しの高台またがっしりと、寸分の揺らぎを見せません。まことに豪宕かつ雄勁で、しかも妙趣こんこんとして尽きない作ゆきです。
 全体に鬼板の化粧土で塗られ、外面には簸と桃山の能衣装を彷彿させる大柄な亀甲紋様が白く箆彫りで表わされ、見込みにも簸と亀甲が白く箆彫りされて、高台辺だけを残して志野釉が全体にかかっています。釉調は濃淡とりどりで、それを透して化粧土の色合いが紫がかって美しく、釉膚には一面に古志野特有の案穴が見えます。高台脇には釉なだれや指あとがあって、これまた魅力ある景を成しています。高台内には斜井桁の窯じるしが彫ってあります。
 茶碗を伏せて上から見ると、腰の辺がほぼ三角状をなしていて、その点、朝萩と似ますが、両者の作風は異なり、作人はそれぞれにちがうものと思われます。この種のデフォルメの成形の場合には、腰のとり方など、おのずとまた共通な面も生まれてくるものでしょうか。
 山端茶碗また、卯花培や朝萩、広沢・羽衣・住吉・峰紅葉などとともに、桃山の時代、美のおおがや濃大萱の窯で生まれたものとされていますが、伝来はつまびらかでありません。
袋 白縮緬
内箱 桐白木 蓋表書き付け「山端」筆者不詳 蓋裏「五月雨ハはれんとやする山端にかゝれる雲のうすくなりゆきます」
(満岡忠成)

鼠志野 茶碗 銘 山端 011

Gray Shino tea bowl. known as ‘Yama-no-ha’
Diameter 8.3~13.3cm Nezu Art Museum
高さ8.2cm 口径8.3~13.3cm 高台径5.7~6.1cm
桃山時代 根津美術館
 「峰紅葉」と似た作振りの茶碗ですが、釉下の鬼板化粧が薄かったためか、鼠色の釉膚はやや薄いです。また、鬼板化粧を全体にほどこしていますので、釉のかからない高台回りも赤黒く焼き上がっています。胴と見込に大まかな檜垣文と亀甲文があらわされ、胴筋風の箆彫りと腰に山路風の箆彫りがつけられています。外に開いた高台は力強く削り出され、高台内に井桁の窯印が箆彫りされています。高台脇には指跡が五つくっきりと残っていておもしろいです。大萱の窯下窯の作と推測されています。
 箱の蓋裏に「五月雨のはれんとやする山端に かかれる雲のうすくなりゆく」の歌銘があります。

山端 やまのは

志野焼茶碗。銘は『玉葉集』今上御製の「5月雨は晴れむとするや山の端にかかれる雲のうすくなりゆく」によります。胴の高さ低く、外部に白釉で亀甲紋と檜垣模様とが現れ、見込みに白い網代模様があるようで、高台廻りには志野特有の巣孔があります。
総体に青鼠釉であることが他の志野茶碗と異なる特色であります。
根津嘉一郎家の蔵。伝来不詳。現在は根津美術館所蔵。(『大正名器鑑』)

山の端 やまのは

鼠志野茶碗。「峯紅葉」「檜垣」「横雲」と同系列の茶碗で、美濃大萱の窯下窯(岐阜県恵那町)で焼かれたものと考えられます。これらに共通することは、スマートな作振りで、そのためにいきな感じをいだかせます。「佗び」の中に「いき」のあるところが、これら一連の茶碗が好まれた理由でしょう。『玉葉集』の「五月雨ははれむとやする山の端にかかれる雲のうすくなりゆく」からの歌銘。鬼板の泥漿がずぶがけにされ、亀甲と檜垣文様が掻き落とされています。《付属物》箱-桐白木、貼紙書付、蓋裏書付《伝来》根津青山《寸法》高さ8.2~8.7 口径13.7~14.0高台径5.7 同高さ1.2 重さ557《所蔵》根津美術館

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