上が柔らかいうちに箆で大胆に檜垣文を彫り込み、鉄釉でその上をなぞって長石分の多い釉をかけたものです。いずれも厚造りの豪放な作行きで、大振りのものが多いです。口辺をゆがめた沓形風の造形、胎土の肉取りが口辺まで厚いこと、文様の檜垣文などは、美濃の志野・織部などの影響が強く感じられます。この茶碗は全体にかいらぎが出た珍しい釉調で、口辺四ヵ所を指で押してあり、胴には五つの×印からなる檜垣文が彫られています。正面に箆彫りと関係なく鉄絵の線が一本余分に引かれているのも、陶工の自在な心の余裕を感じさせて面白いです。十七世紀はじめの岸岳飯洞甕窯の産です。《寸法》高さ9.4 口径12.5~14.1